scripta manent.

文章は残る。

ライターは「誰でも未経験から稼げる」の嘘

年にいくらも昇給せず、賞与も大した額が望めない現在、手っ取り早く収入を増やす手段として「副業(複業)」がもてはやされている。いや、もてはやされるようになって数年が経とうとしている。

一度就職してしまえば年功序列・終身雇用が約束され、少し我慢していれば自動的に生活に余裕が生まれていった世代では、本業のかたわら小金稼ぎに精を出すなんて「けしからんこと」だという考えが一般的だった。副業なんてする暇があるのなら1時間でも多く本業に費やせ。24時間、働けますか。そういう世界だった。

余計なことを考えず、持てる力の限りを尽くして会社に貢献していれば、自動的に報われる仕組みだったらそれでよかっただろう。しかし悲しいかな、現在はそんな仕組みで働ける人間の方が珍しい。私たちは日々の生活を送るために働いている。有り体に言えば、「カネ」のために働いている。報酬の伴わない労働に汗を流す余裕はない。

そんなわけにプラスアルファ国が「副業? どんどんやりなさい(厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン』)」と言いだしたことにより、世はまさに大副業時代へと突入した。ウィーアー!

 

「誰でも未経験から始められる副業」

我も我もと副業を志す人間が増えるなか、問題がひとつ浮上する。

そう「副業って何すればいいの?」だ。

もともと手に職のついている人間はそれをすればよかった。プログラミングができるならフリーランスプログラマーだし、デザインができるならフリーランスデザイナーになれる。会社でやってる仕事で培ったスキルをそのまま外に持ち出すだけで副業になる場合が多かった。

でもそもそも会社勤めでなく、特別身につけた職能もない人たちもいる。たとえばそれは専業主婦(夫)であったかもしれないし、何らかの理由で長年無職でいた人たちかもしれない。あるいはただ自分にできることが思いつかなかっただけの人かもしれない。

そういう人たちが求めたのが「誰でも未経験から始められる副業」だ。

これにはかなり無理がある。わざわざ社外に仕事を依頼する人たちが求めているのは社内では調達できないプロの技術であって、素人のそれではないからだ。

でも「素人だって副業がしたい!」という人と、「副業人口を増やして中間マージンを抜きたい!」という会社が悪魔合体を果たすことで、ある職業が「誰でも未経験から始められる副業」という理外の存在として位置づけられてしまった。

もうお分かりのことと思うが、それが「ライター」である。

誰でもできる!(稼げるとは言ってない)

私も7年ほどライター業で糊口をしのいでいる身なので、お前が言うのかと思われそうではあるがあえて言う。ライターって、そんなに稼げる職業ではない。それこそ「副業」として月に数万円程度プラスするくらいなら難しくはないと思うが、専業で食っていくには高いハードルがある。

どんな事であれ誰しも最初の1回はあるので「誰でも未経験から始められる」ということを文字通り解釈するなら、誰でも始めることはできるだろう、間違いなく。

始め方を教えよう。

次に誰かに職業を聞かれたとき「ライターです」と答えればいい。あるいはTwitterのbioに「ライター」と書こう。これであなたも今日から立派なライター(自称)になれる。さあ、誰でも未経験から始められるライター業! 今日から「ラ」のつく自由業!

名乗ったところで一銭も儲かりはしないが……。

未経験でも「稼げるライター」になるために必要なたった一つのこと

自称するだけでなく、それでお金を稼ぎたいだって?

未経験で、なんのスキルもなく、これまでに書いた一番長い文章は渋々書いた学校の宿題の読書感想文だというのに?

別にそれでもかまわない。

とにかく今、あなたに「ライターとして金を稼ぎたい」という気持ちがあるのなら、稼げるライターに今からなればいい。それだけのことだ。

稼げるライターになるのに必要なことはたった一つ。

「営業」である。

今、顔をしかめた人は稼げるライターにはなれないのでブラウザバックしていい。たぶん終業後に近所のマックでアルバイトしたほうが儲かるよ。さようなら。

営業といってもさまざまな形がある。ザっと思いつくだけでもこのくらいのパターンはある。

  • 媒体社に直接売り込む
  • 知人に相談する
  • 賞に応募する
  • 自分のメディアを持って発信する
  • クラウドソーシングサイトに登録する

直売込み

いわゆる「営業」と聞いて思い浮かぶのは直売り込みの方法だろうが、正直これは駆け出しで実績も実力もない丸腰ライター(仮)がやるのは無謀だ。何かの領域で専門的な知識を持っているなら話は別だが、そうでなければ売り込める要素が一切ない。

知人に相談

知人に相談するのは、このなかでは一番手っ取り早い方法かもしれない。ただし、メディアなどライターを欲している職に就いている知人がいなかったら希望はないが。営業できる知人を得るために業界人が集まりそうな場所を徘徊するのも、営業かもしれない。

賞に応募

もし入賞できればまとまった額の賞金が得られ、かつその後の仕事にも直接つながる可能性がある方法だ。とはいえよほどのマイナー賞でもなければ、それなりに腕に覚えのある人間が集まるもの。よちよち歩きのヒヨッコが気まぐれに出て入賞できる可能性はいくらもない。

自分のメディアを持って発信

まあやってみてもいいが、個人が収益化するのは並大抵の努力ではできない。書き続ける情熱を持てるテーマがあり、コンスタントに発信できるなら、早いうちから取り組んでおくのも悪くはない。メディアづくりはコンテンツの質に加えて積み重ねた時間が大きな価値を持つので、他の活動と並行して行うのがベストだろう。

クラウドソーシングサイトに登録

現状、駆け出しライターの案件獲得先として最も有力なのがクラウドソーシングサイトだと思う。有名どころでは「 ランサーズ」や「クラウドワークス」などがある。報酬から手数料が引かれるため収入が目減りするというデメリットは確かにあるが、「案件が常に大量に存在する」「企業との契約周りがシステム化されていて楽」「先払い形式で報酬のとりっぱぐれが無い」「名前が出ない仕事でも実績として評価される」など、デメリットを補って余りあるメリットも存在する。

個別のクラウドソーシングプラットフォームの話はまたいずれしたい。

やりたいならやればいい

私は個人的に未経験者がライターを副業に選ぶことにはあまり賛成しない。原理主義的かもしれないが、やはりクライアントが求めているのはプロとしてある程度以上のクオリティを備えた成果物だからだ。実力が伴わない状態で仕事を請けるのは、モラルに反するとさえ思う。

その一方で、「これからライターとして仕事をしていきたい」という思い自体を否定することはできないし、したくない。それは私自身ずっと持ち続けてきたモチベーションだからだ。なりたいと思うのなら、なればいい。好きなだけ金を稼げばいい。

ただ「文字単価」でライターの価値が決まるものではないということだけは言っておきたい。一部のフリーランスライターの間で信仰される「文字単価カースト」の存在は、あれだけは私は「悪」だと言い切ってしまいたい。

願わくは、多くのライター志望者が自身の権威付けに「文字単価」を採用しないことを。そして胸を張って「自分はライターだ」と言える仕事ができますように。

 

では、また。